加齢黄斑変性とは
人間の眼はしばしばカメラにたとえられますが、網膜はフィルムに当たる働きをしています。黄斑は網膜の中心部にあり、物を見るために非常に重要な働きをする部分です。加齢黄斑変性とは、黄斑部が加齢などの原因で障害されて視力が低下する病気です。
欧米では中途失明原因の第一位となっており、日本でも高齢者を中心に患者数は増加傾向にあり、最近の統計では発症率が約1.3%(80人に1人)と言われています。
*加齢黄斑変性における失明は社会的失明と言われ、視野の中心の視力は失われるものの、光を全く感じなくなるわけではありません。ごくまれに完全に失明することはあります。
加齢黄斑変性は、加齢、喫煙、高脂肪食、太陽光などによって発症するリスクが高くなるといわれており、日本では高齢男性に喫煙者が多いため、女性よりも男性の方が多い病気です。
加齢黄斑変性のタイプ
加齢黄斑変性には二種類のタイプがあってそれぞれ原因が異なり、滲出型と萎縮型にわけられます。
滲出型は、脈絡膜から異常な血管(脈絡膜新生血管)が生えてくることによりおこるタイプです。新生血管はもろいため、出血したり、血液中の成分が漏れ出すことで、黄斑にダメージを与え、視力が低下します。病状の進行が速く、急激に視力が低下します。
萎縮型の特徴は、加齢にともなって網膜の細胞が変性し、網膜の下にドルーゼンと呼ばれる老廃物が溜まり栄養不足になります。その結果黄斑の細胞が徐々に萎縮していきます。
萎縮型の場合の症状はゆっくりとすすむため、視力が急激に落ちるということはありませんが、滲出型に移行する場合があります。
加齢黄斑変性(滲出型)の自覚症状
黄斑は視覚情報の大半を担っているため、黄斑部に障害が発生することで、ものが歪んでいるように見えたり(変視症)、見たい部分がぼやけて見えたり、視野の中心が暗くなったり、見たい部分が不鮮明に見えます。治療をしないまま放置すれば多くの場合は視力が0.1以下にまで落ち込みます。
加齢黄斑変性の検査と診断
加齢黄斑変性はできるだけ早く治療を始めて病状の進行を食い止めることが大事です。
「アムスラーチャート」と呼ばれる格子状の表を用いて確認してみましょう。
確認するときは必ず片目ずつチェックし、歪んで見えないかどうかの自己チェックを行って早期発見に努めます。
この検査は自宅でも簡単に行うことが可能で、変視症を早期発見するために行われます。
もし、下記のように方眼紙のマス目が歪んで見えたり、中心が暗くなったり、中央が欠けているように見える場合には、早めに病院で診察を受けてください。
加齢黄斑変性の診断には、視力検査の他に眼底検査や光干渉断層計(OCT)、造影剤を使用した検査などが必要です。眼底検査では、眼底が見やすくなるように散瞳薬という瞳孔を広げる点眼薬を使って網膜の状態を確認します。出血や網膜のむくみ、新生血管などができていないかなどがわかります。
光干渉断層計(OCT)という検査では眼底に赤外線を当て、反射して戻ってきた波形を解析し網膜の断層を調べ網膜のむくみや脈絡膜新生血管などがわかります。造影剤を使用した蛍光眼底造影検査では、腕の静脈から造影剤を注射し、光を当てて眼底の血管の異常を検査します。血管の形や位置、血管からの血液中の水分のもれ具合などがわかります。
加齢黄斑変性の治療
萎縮型の場合、現時点で有効な治療法は見つかっていません。ただ滲出型に比べると進行が遅く急激に物が見えなくなることもありません。ただ中には途中で滲出型に変わるものもあるため定期的な診察は必要です。進行予防という意味で禁煙、食生活の改善、サプリメントの摂取等が勧められます。
滲出型の加齢黄斑変性の場合は、新しくできてしまった血管の大きさや場所によって治療法が異なり、早期発見が重要となります。初期段階で治療を開始することで視力へのダメージを最小限に食い止めることが大事です。
現在行われている治療方法としては、黄斑から離れたところに新生血管がある場合レーザー光凝固と言ってレーザーを新生血管に照射する治療法があります。しかしレーザー照射したところが見えない点となること、周囲の正常の網膜にもダメージを与えることもあります。
黄斑の下に新生血管があるときに行う治療としては、光線力学療法と抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬硝子体注射があります。光線力学療法は視力0.5以下の方が対象になります。ベルテポルフィリンという光に反応する薬剤を点滴します。薬剤が新生血管に取り込まれたところで弱いレーザーを照射します。すると薬剤がレーザーに反応し新生血管が退縮します。この治療は2日間入院が必要なこと、点滴後は光に当たると光過敏症を起こすため光を防御する必要があります。
次に抗VEGF薬硝子体注射ですが、加齢黄斑変性の原因が新生血管の成長や血液成分がもれ出すのを促すVEGFという物質によるものとされており、このVEGFの働きを抑える薬剤を眼内に注射することで新生血管を縮小させたり、血液成分の漏れを抑える治療法です。従来の治療法では視力の改善は期待できませんでしたがこの治療法では視力回復の効果も期待されています。ただ劇的に視力が改善する訳ではないこと、すべての人に効果があるとは限りません。また注射は複数回の投与が必要なこと、保険が適応されますが費用の面で負担がかかります。
【抗VEGF薬硝子体注射】
加齢黄斑変性の予防
加齢黄斑変性の発症には加齢が関わっていますが、その他に遺伝的な素因、環境因子として喫煙、日光曝露、食生活など複数の要因が関係していると言われています。
喫煙者はタバコを吸わない人に比べて4~5倍発症のリスクが高まることが報告されています。タバコを吸うことで体内に活性酸素が発生します。活性酸素は目の細胞を傷つけ変性させる危険があります。
太陽光もよくないとされており、特に青色光は紫外線よりもやや波長が長いため網膜に影響し光吸収物質が光を吸収し、そのエネルギーにより酸素が活性酸素となりそれにより網膜が障害されるとされています。
食事が欧米化したことにより日本人も魚食より肉食が多くなっていますが、そうした食の変化も関係しているとされています。予防としては、
- 早期発見が大事なので50歳以上になったら定期的に眼底検査をする
- 禁煙する
- 日中外出時サングラス・帽子をする
- 食生活を見直す。バランスよく食べる、緑黄色野菜や魚を摂取する、不足分はサプリメントを使用する。
が大事と思われます。
加齢黄斑変性に効果のあるサプリメント
元々加齢黄斑変性は欧米に多い病気でしたので、予防のための臨床研究も欧米で早くから開始されています。アメリカで行われた大規模な臨床研究の結果から有効とされるのはルテインになります。ルテインはカロテノイドの1種になります。カロテノイドとは動植物・微生物が持つ天然色素の総称で体内では合成されないため日常的に摂取する必要があります。ルテインは目のどこに存在するかというと水晶体と黄斑に多く存在します。ルテインは眼内では青色光などをブロックするフィルター効果と活性酸素を還元する抗酸化作用があります。ルテインはほうれん草やブロッコリーなどに多く含まれていますが、一日の最適量は10~20mg/日とされておりほうれん草では約1束、ブロッコリーで約2株の摂取が必要とされます。中々毎日これらを摂取するのは大変なのでサプリメントを利用するのが有効です。