糖尿病網膜症とは

糖尿病網膜症は、糖尿病の合併症として引き起こされる目の病気です。糖尿病は、すい臓から分泌されるインスリンというホルモンの分泌量が減ったり、効きが悪くなったりして血液中のブドウ糖の処理がうまくできず血糖値が上昇する病気です。
血液中に増えすぎた大量のブドウ糖の影響により血管や神経がダメージを受けるため、様々な合併症が出現します。糖尿病網膜症は腎症・神経症と併せて糖尿病の三大合併症の1つとされています。糖尿病患者数の増加は我が国で深刻化してきていることもあり、それに伴って糖尿病網膜症の発症件数も増えてきています。
日本における糖尿病網膜症の有病率は、糖尿病患者さんの約15~40%とされ、約300万人が糖尿病網膜症にかかっていると推定されています。糖尿病網膜症は、年間約3000人の失明を引き起こし、成人の失明原因の第二位と言われるほど恐ろしい病気です。糖尿病網膜症は一般的に、糖尿病になってから数年あるいは10年以上経ってから発症するとされています。しかし初期には自覚症状がほとんどないため、気づいた頃にはだいぶ進行してしまっており、なかには失明してしまうケースもあるため、気を付けなければならない病気です。

糖尿病網膜症の原因

糖尿病網膜症は、カメラでいえばフィルムの役目をする網膜が障害される病気です。糖尿病により血糖の高い状態が続くと、血管が詰まりやすくなります。特に無数に細かい血管が張り巡らされている網膜では、詰まりや出血が生じ酸素や栄養が不足してしまいます。これが糖尿病網膜症の原因です。

糖尿病網膜症の進行

糖尿病網膜症には、進行の度合いにより単純網膜症、前増殖網膜症、増殖網膜症と進行していきます。単純網膜症では長期間高血糖が続くことで毛細血管が壊れ始め、小さなコブができたり(毛細血管瘤)、出血したり(点状出血)、血管から血液成分がしみだしたり(硬性白斑)します。この時期は自覚症状はありませんが、ものを見る中心部である黄斑部に浮腫が及ぶとかすみがひどくなったり、ものがゆがんで見えたり視力が低下することがあります。
前増殖網膜症に進むと毛細血管があちこちで狭くなったり、詰まったりして血液が網膜に流れにくくなります(虚血)。この段階でも黄斑部に病変がなければ自覚症状はあまりありません。
増殖網膜症になると、虚血のため網膜に酸素や栄養が不足し、新しい血管(新生血管)が作られます。新生血管はもろく、壊れやすいため硝子体内に出血を起こしたり、また増殖膜という膜ができて収縮することにより網膜剥離を起こします。硝子体出血や網膜剥離により飛蚊症や視力低下などの症状が出現します。そのまま放置してしまうと失明につながることもあります。

糖尿病網膜症の検査と診断

糖尿病網膜症かどうかを診断するために、視力検査、眼底検査が行われます。眼底検査では眼底が見やすくなるように散瞳薬という瞳孔を広げる点眼薬を使って網膜の状態を確認します。必要に応じて行われるのが蛍光眼底造影検査で、これは蛍光色素を持つ造影剤を静脈注射して撮影することで、眼底の詳しい状態を見る検査です。
また、網膜断面の様子を詳しくチェックできる網膜断層検査が行われる場合もあります。眼底に赤外線を当て、反射してきた波を解析することで網膜断面の状態がわかるというもので、特に中心部の黄斑部にむくみがないかを調べます。

糖尿病網膜症の治療方法

糖尿病網膜症の治療では、糖尿病の治療すなわち血糖コントロールが病期に関係なく重要です。内科で食事制限や運動療法を行い、血糖値を下げるための薬を服用します。その上で網膜症の症状により治療を行います。症状の進行具合などによって医師の判断で治療法が選択されるのが一般的です。
増殖前網膜症または増殖網膜症の段階で、レーザー光凝固療法を行います。レーザ-治療では網膜の血流が途絶えた部分に新生血管ができないように焼き固めたり、すでにある新生血管に対して行います。糖尿病の長い経過の中での進行予防を目指した治療で必ずしも短期的に視力が回復するとは限りません。症状により部分的に行う場合と何回かに分けて網膜全体に行う場合があります。光凝固の時期が遅れると失明にもつながるので大事な治療になります。
さらに進行した網膜症となり、硝子体出血や網膜剥離を起こした場合に行われるのが、硝子体手術です。眼球に小さな孔を開け、そこから特殊な器具を挿入して手術用顕微鏡で眼内を直視しながら出血によって濁ってしまった硝子体や、網膜剥離を起こしている増殖膜を取り除く手術が行われます。
黄斑浮腫に対しては薬物治療やレーザー治療、硝子体手術を行います。薬物治療は2つあります。
1つは抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬硝子体注射です。網膜内の毛細血管から血液成分が漏れ出すのをうながすVEGFという物質によって黄斑浮腫が起こるとされており、このVEGFの働きを抑える薬剤を眼内に注射することで血液成分の漏れを抑える治療法です。
もう1つはステロイド薬注射になります。ステロイド薬は炎症を抑えたり血管から水分が漏れ出てきやすい状態を改善する物質で、この薬剤を眼の外側(テノン嚢下)や眼内(硝子体内)に注射します。
レーザー治療は毛細血管や毛細血管瘤から血液成分が漏れ出ている部位にレーザーを当て焼き固めることで漏れを防ぎ浮腫を改善させます。硝子体手術は黄斑浮腫の原因となるタンパク質や硝子体の牽引を除去して浮腫を改善させる方法です。浮腫の状態により複数の治療を組み合わせて行います。
以前に比べ治療法は進歩し失明の危険は減っていますが、どれも病気の進行を遅らせたり合併症を予防する目的で行われます。完全に治癒する病気ではないことをあらかじめ知っておく必要があると言えるでしょう。